SNIP STYLE 2025年3月号掲載 取材・掲載協力 株式会社コワパリジャポン
SHOWA → HEISEI → REIWA
未来ある美容業界、その先へ!
40歳を前に、クリエイションを次世代へ伝えていくことを使命として捉え、イベント活動を始めたウツワ utuwaの黒須光雄さん。SNSの普及もあり次第にジェネレーションギャップが広がっている今、美容師のアイデンティティであるクリエイションやそこにかける熱量をどう伝えていくべきか、迷いながらも真っ直ぐ進む黒須さんに、蒲生会長の言葉が響きます。
ひとつのことを突き詰めると、
熱量が生まれる
それを次の世代に伝えたい
黒須光雄
蒲生 黒須さんのサロンは東京・高円寺ですよね。
黒須 はい、高円寺です。
蒲生 僕はずっと中央線沿線に住んでいて、父親の家があったこともあり高円寺には縁があります。そして、会社は昭和2年から東京の本郷にあったんですが、昭和32年に西荻窪に移転しました。当時は電話がダイヤル式で、東京23区外は100番を回してから電話交換手を介さないと通話できない。それで23区内にこだわって西荻窪にしたというわけです。
黒須 当時は大変だったんですね。
蒲生 そうですね。でもそれもよかったと今では思います。西荻窪に会社を構えたからこそ嶋義憲さん(SHIMA会長)と出会えた。人は出会いと縁が何より大切ですよね。
黒須 その通りですね。

蒲生 鎌倉の建長寺のお坊さんの講話ですが、小さな才能「小才」は縁あって縁に気づかず。せっかくの縁があってもそれをおろそかにしてしまう。「中才」は縁に気づくがそれを広げることができない。「大才」は「袖振り合うも多生の縁」。袖と袖が触れ合った程度の縁でもつなげていく。美容師もスタッフとの縁、お客様との縁をいろいろな形でつなげていくとスケールが大きくなっていくということですよね。黒須さんとの対談も縁ですね。ところで美容師を目指されたきっかけは何だったのですか?
黒須 僕は大義名分があって美容師を目指したわけではありません。高校は進学校で、大学に行くつもりだったんですが、当時バンドをやっていて、ライブハウスで出会う美容師や美容学生はみんな自分の好きなものや世界観を持っていた。僕には人に言えるようなものが何もなくて、このまま大学に行って就職するのはなんか違うと感じて、どうせやるなら自分にしかできないことをやってみたいと思ったのがきっかけです。親には進学してほしいと言われていましたが、自分でやりくりできるなら構わないとやっと許しをもらって、バイトで貯めたお金と奨学金で上京しました。
蒲生 それも縁ですね。今の場所、高円寺とはどういう縁だったのですか?
黒須 元々吉祥寺のサロンで働いていたというのもありますが、高円寺はアンダーグラウンドなカルチャーが根付いていますし、僕が上京して最初に住みたかった街が高円寺なんです。音楽やファッションが好きな若者が集まる街なのに、美容室の文化が根付いていないように感じていました。それなら自分たちが美容室の文化を根付かせていけたらと思って高円寺に出店を決めました。
蒲生 高円寺駅を中心に人口層が広いんですよね。北は西武線、南は地下鉄丸ノ内線があって。
黒須 そうなんです。車でも環七経由で北区や荒川区、総武線経由で千葉からもお客様がいらっしゃいます。
蒲生 独立を決めた理由はどんなことだったのですか?
黒須 新卒で入ったサロンの体制がしっかりしていて独立願望はあまりなかったんですが、海外帰りの同期に一緒にやらないかと誘われ、面白そうだなと思って動き始めました。そして準備を始めて6年目、ちょうど震災の年に彼と僕の妻と3人で高円寺にお店を出しました。彼がオーナーで僕らはオープニングスタッフ。その会社がどんどん大きくなって高円寺で6店舗を経営するまでになったんですが、いろいろやらせてもらううちに僕は美容にのめり込むようになって、クリエイションもやりたいし雑誌にも出たいし、デザイン力を気に入ってもらえるお店にしたいという気持ちが強くなっていきました。一方で、オーナーである彼は経営に強くなっていって温度差が生まれてしまって……。このままではいい方向に向かないということで、33歳の時、2019年に自分のお店を出して自分のやりたいことを突き詰めていくことにしたんです。

蒲生 クリエイションに興味持つようになったのは?
黒須 彼とお店を出す時に目標をつくろうという話になり、自分がどういう美容師になりたいか改めて考え、美容業界誌のカバーを担当することを目標に頑張ろうと決めました。目標達成のためにはどうすべきか考え、コンテストで名前を知ってもらうとか、撮影をたくさんしてブックを出版社の方に見てもらうとか、火がついたのはそういった行動からです。
蒲生 当時は倍率がすごかったんじゃないですか?
黒須 相当な倍率だったと聞きました。そんな中、運よく受かりました。当時はACQUAに入りたいという人が沢山いて、店の前には見学者が大勢いました。
蒲生 美容師の仕事の原点は技術でありクリエイションだから、それを失くさぬよう大事にされたんですね。
黒須 クリエイションが僕の美容師としてのアイデンティティなので、若い世代に伝えていきたいと思っています。
蒲生 クリエイションというとTHAで受賞されていかがですか?
黒須 ありがとうございます。コンテストに参加するのは5年ぶりで、経営者として迷いもありました。自分がチャレンジすると、熱量は生まれるけれど、振り落とされるスタッフも出てきてしまう。もうコンテストに出なくてもいいかなと思っていましたが、スタッフから「黒須さん出てください!」と背中を押されて出場を決めました。これまでサロンを5年間やってきていちばんうれしい言葉だったので、絶対に結果を出したいと思って挑みました。
蒲生 みごと受賞されて、おめでとうございます。僕らもコンテストをより盛り上げるために会場にもこだわっています。料理もそうですけど、きれいな器を用意して、そこに料理を盛り付けることって大事だと思います。器といえば、サロン名の由来を教えてください。
黒須 会長がおっしゃる通り、僕らはあくまで主役ではないと考えていて、お客様やスタッフがサロンを通してより魅力的になったり、より幸せになれるお手伝いができるお店でありたい、というのがコンセプトです。もうひとつは、僕自身器というプロダクトが好きなんです。それぞれの器には作家さんの想いや技術が込められていて、僕もいつまでも自分が職人であるということを忘れず、お客様にきちんとヘアスタイルを提供していきたいという想いを込めました。
蒲生 素敵な名前ですね。クリエイターとして、今後の展望はありますか?
黒須 クリエイション自体はずっと続けていきたいと思っていますが、39歳という若くもなくベテランでもない年齢になって考えるところがあり、veticaのディレクター・高木君と一緒に新たなイベント【HANGOUT】を立ち上げました。クリエイションを通じて僕らの美容師人生は充実したものになったので、若い世代の美容師がクリエイションや何か夢中になれるものを見つけて、熱量を持って頑張れる環境をつくっていけたらと思っています。僕らがデザインをつくって見せるというのが大枠ではありますが、ひとつのことを突き詰めると熱量が生まれるということを見てもらうというのが趣旨です。【HANGOUT】は溜まり場という意味なので、このイベントを通じて別のコラボが生まれたり、別の形のイベントとしても広がっていけばいいなと思っています。輪を広げていくイメージです。
蒲生 我々もできる限り応援しますからね。
黒須 ありがとうございます!心強いです!最後に伺いたいのですが、昔よりもジェネレーションギャップが広がり、うまく擦り合わせできる人もいれば乖離してしまう人もいて、それが求人難にもつながっていると感じているのですが、どう解決したらいいと思われますか?
蒲生 中世に明恵上人という高山寺の僧侶がいて、「ありようがままに」というのが彼のテーマでした。あまりにも深い意味があるから簡単には言えないけれども、存在するものは存在するのだから、それをどう自分が解釈するか、ということです。僕のテーマでもあります。僕は人を叱ることはありません。自分の価値観で人を判断したり起こったことを責めるのではなく、互いに解決を求めることが大切だと思っているからです。人間なんていつまで経っても完成しないし、ただ経験値が違うだけ。何かを判断する時にそれをどう活かせるか、ということです。
黒須 肝に銘じて精進します。貴重なお話をありがとうございました。
人間に完成はないし、経験値が違うだけ
何かを判断する時に、経験値をどう活かせるか
蒲生茂


黒須光雄(くろすみつお)
ウツワ utuwa代表。1985年生まれ。都内2店舗を経て2019年4月に東京・高円寺にサロンオープン。シンプル+αなデザインが高円寺に集まる感度の高い人々から支持されている。THA 2024 モデルクリエイション部門でVeLO&vetica 鳥羽直泰賞、リアルクリエイション部門でLECO 内田聡一郎賞を受賞するなど、コンテストでの受賞歴も多数。
Photo / 宮里拓郎
取材・掲載協力



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